■「三角技法」を後進に
強くなるため、理想を実現するために、仲間を増やす。
森の軌跡は、開祖・宗道臣の教えを忠実に守り続けた半生でもあった。
「指導者を一番多く出しているのは自分の道院のはず」と胸を張る。「ケンカのできる男にしか道院を出させなかった」というのが森らしい。実際、初期の頃は、道場破りなどが現実にある時代だった。道場を守るために必要な人選でもあったのだ。
さて、森が「三角技法」に気づきだしたのは、七段か八段になった約20年前だという。それから5年ほど経ち、それが確信に変わった頃、周囲にもそれを話し出したという。開祖に握られた瞬間に、森は身体が浮く感じがした。それを再現しようとして動きを追求した結果だった。
「『三角技法』とは、一瞬にして相手の重心を片足に移して崩すための、方程式のような普遍的なコツです。発表せずに神秘の技のように自分だけがやることもできるのですが、それでは、仲間も強くし、向上しようとした開祖の教えに反します。ですから、自分が動ける今のうちに後進に伝えたいと思い、発表することにしました」
人間の腕は自由に動くため、手首を支点にした柔法の技は、元来難しいものである。
この「三角技法」をマスターすることにより、難度の高い柔法技を開祖・宗道臣が行っていたようにできるようになるという。
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平成11年、講習会にて技術指導をする森大範士
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「開祖が亡くなつた後、誰に訊いても、『自分は開祖に目をかけられていた』という。
開祖はそんな人でした。技に関しても、開祖は天才だったと思う。あれだけのものを創られたんだから」と森は言う。
天才が生み出した技を、底なしの情熱で追い求めた弟子が、普遍的な技法に昇華する。冒頭のように、最初は「ケンカは強くも弱くもなかった」という森。だからこそ、強くなる喜びを知り、たゆまぬ技の探求を続け、たどり着いた「三角技法」である。
大範士・森道基自身、類まれな才能の持ち主に違いない。(文中敬称略)